岡村靖幸を初めて聴いたのは、友達の家に遊びに行った時だ。
 高校生も卒業する頃に近づき、ブルーハーツ長渕剛の世界は、私にはちょっと持て余し気味になっていた。何か新しい音楽を聴きたいなあ。
 洋楽もチラホラ聴いていたが、何故か洋楽になると、女性ボーカルの方を好んで聴いており、このまま洋楽を聴き続けていくのかなあと思っていたところだった。
 友達の家で、色々お喋りしたりしながら、彼女は岡村靖幸のCDをかけてくれた。岡村靖幸の曲を聴くのは初めてだった。じっと聴いていたわけではないのだが、時々、岡村靖幸の甘ったるい喋り声がCDから聴こえてくる。気になるので、笑っていたが、そのうち岡村靖幸も笑っているのが聴こえ始める。
 「わ、笑ってるよ?!」とそこに居合わせた友人同士でさらに笑った。
 気持ち悪いな〜と思いつつ、ちょっぴり興味を持った私は、新しい音楽にも挑戦だ、とレンタルCD屋でCDを借りることにした。
 最初は、その時借りた別のCDの方ばかりを聴いていたが、その合間に岡村靖幸を聴いているうちに、段々そっちの比重が増えてきて、気がついたら岡村靖幸ワールドにハマっていた。
 彼の歌詞は、独特だ。夫に言わせると、男の子ってこんなもん、とのことだが、私は女なのでよくわかりませぬ。笑える……と今でも思うことがある。そもそも何言ってるかわからないことも多いし。「長袖煮込んじゃう」って今でも聞こえるもん。でも、彼の音楽性には、毎度感心しながら聴いている。
 優れたリズム感や独特の表現方法、声の出し方、何より伴奏となっている楽器、音の使い方が素晴らしい。センスと言うんでしょうか。センスなんて、本当に持って生まれたとしか言いようがない。天性のものだわね。だから大事だわね。それを生かしてプロになれたのは、幸いだよ。たくさんの人に聴いてもらい、どこかに共感するファンが多くいるというのは幸せなことだ。
 さて、女性の私が、彼の曲が好みだと言って、感心してくれる男性はどれほどいるだろう。大学の頃に知り合ったり喋ったりする男性のほとんどは、引いていた。「えっ。珍しいなあ。」の後、絶句。「エッチな歌詞書く人やろ?」とか。そういった台詞を聞く度に、私は私でウンザリしていた。この人たちの「音楽センス」なんてそんなもんねぇ〜。知れたもんだ、フン。と心の中で悪態ついていた。