さてさて、何とか出産を終えると、母乳をやるという、母親になる身としては、とても嬉しい行為が待ち受けている。―と思っていた。妊娠中も、雑誌などに書いてある通りの「おっぱいマッサージ」なるものをして、『赤ちゃん抱っこしながらおっぱいをやる自分』を想像して、自分が母親になることを実感しては、ふわふわ良い気分になっていた。
 ところが、時々マッサージしている最中に、例の自律神経失調の症状が出る。胃の辺りからぞわぞわしてきて、体全体がイライラする。以前も書いたことがあるが、正座して足がしびれてくると痛い、というのを超えて、足の中側がうずうずくすぐったいような気持ちの悪い症状になることがありますよね?あれが、胃の辺りから始まって体全体に広がる、そんな感じ。……イジイジしていやだなあ……。
 と、思っていたら、その症状は母乳をやる時にも出てしまった。
 マッサージの甲斐あって「まあ、赤ちゃんが喜びそうなおっぱい!」と看護婦さんたちにも言われたのに、退院して間もなく、自律神経失調のその特有の症状のために、とても苦しくなって泣きながら母乳をやることが出てきた。
 絞ると、ぴゅーぴゅー出るもんで、嬉しい反面、その症状が辛くて苦しんだ。気持ちが悪い。母乳をやる度に、体全体がぞわぞわイジイジして、じっとしていられない。段々とその症状の辛さに耐えられなくなってきた。
 その症状の辛さと、あー思い描いていた‘母乳をゆったりやるお母さん’とは程遠い……という悲しさで、泣きながら母乳をやる羽目に。
 で、泣きながらやっている私を見て、夫が「やめたら?」と言ってくれたのだ。
 母も「もったいないみたいだけどねぇ、しょうがないよね。」と言った。
 母乳をやる時は、テレビを見ないで赤ちゃんの目を見てだの、子守唄を歌ってだの、色々言うけど、それ以前の問題だった。この症状が辛い、いやだと思いながらやる母乳なら、落ち着いた気持ちでやるミルクの方が良い。そう決めて、その辛さから解放されることになった。
 私が赤ん坊の頃は、母乳を飲めなかった。母乳を飲むと、私はすぐに下痢をしてしまう体質だったらしく、医者に「この赤ちゃんは母乳が向いていないんだね。ミルクにして下さい。」と言われたそうだ。
 様々な事情で、粉ミルクを飲む赤ちゃんがいる。母乳をやりたくても、何故だかどうしても出ないお母さんがいる。乳腺炎をきっかけに、あきらめたお母さんがいる。ストレスとプレッシャーで母乳が出なくなったお母さんがいる。母乳が体質に向かない赤ちゃんがいる。私みたいな体質のお母さんがいる。
 母乳は確かに素晴らしいものだ。栄養的にも免疫的にも、スキンシップからくるお互いの安心感にも、そして母性本能を育てる行為としても。今では日本中のお母さんがわかっていることだろう。しかし、母乳をやったお母さん、「母乳?粉ミルク?」と安易に、派閥として聞かないでほしい。粉ミルクにしたくてしたんじゃありません。悲しい思いをして、仕方なく粉ミルクにしたお母さんはいっぱいいるんです。