心理学の本を多く読んで、知識が増えていくのは良いことだし、実践する機会があるのも良いことだ。子供に良い影響を与えることも、時にはあるわけだし、人が困った時に、どんな風に話を聞けば良いか、どういう風に受け止めれば良いか、相手の気持ちや自分の気持ちが、客観的に考えられるようにもなってきた。
 しかし、度々書いているが、色々知識を得て考えている私より、温かく、上手に子供と接している親は山ほど目にする。逆も然り。
 現場で子供と接している親は必死だ。心の中で、何が良いか悪いか、勘でも知識でもよくわかっている人たちも多くいるだろう。そして必ずしもうまく対応できない自分のこともよくわかっている人も多いだろう。対応の良し悪しは、時と場合によることも多いはずだ。忙しい時、時間がある時、それによって心に余裕がない時とある時が出てくるし、ストレスがたまりがちで、子供の存在が自分のストレスになってしまう場合もあれば、ストレスが抜けて優しいお母さんでいられる場合もある。同じことを、笑ってやり過ごせることもあれば、怒ってしまうこともある。一貫性のある態度で臨まなければと思っても、やっぱりその時、その瞬間の状況、心境によって対応は違ったりする。
 この度、政府が「子育て指南」の提言なるものを発表しようとしたが、余計なお世話であるばかりか、その言葉によって、多くの親のストレスやプレッシャーを増やして、ますます育児を辛いものにさせるだろう。どういうつもりであんなものを出そうとしたのか。ここでは批判や悪口は極力書きたくないが、これだけは例外だ。私自身‘お母さん’であるし、乳児のお母さんたちは、もっと不安でいっぱいなので、その味方でいたい。この案は、世の中のお母さん方の気持ちが、あまりにないがしろにされている。
 母乳が良いだなんて、今どき、どの親だってわかっている。でも出ない、出せない、飲めない事情が様々にある。母乳やっている時に、そりゃ子守唄の一つでも歌ったら良いかもしれない。でも母乳やってるだけで、精一杯という人も多い。様々な育児で時間を追われ、母乳やってる時くらい、ぼんやりしても良いではないか。それによってお母さんの精神状態が安定するなら、ぽけっとしていて良い。気持ちがリラックスできていて、子守唄を歌ってやりたい気分になれば、そうしてやれば良い。
 早寝早起きだって、夜泣きがひどくてできない親子はたくさんいるはずだ。それを赤ん坊に押し付けることが良いことなのか。夜泣きしてやっと寝た朝にまた起こせというのか。疲れているお母さんに早起きさせて苛立ちを増幅させるのか。あえて早寝させようとしないで夜更かしさせるような環境にいるというのは、その親子に責任があるのであって、政府に言われることではないだろう。嘘をつかないにしてもそうだ。そんなことを政府に言われなければ子供に教えられない親が、そんなにも多いのか?ちゃんと周りの親と接して実感したのか?現場でじっくり会話したのか?
 現場の親子は必死だ。命をつなぎとめるために必死に泣き、必死に訴える子供と、それに必死に対応する親。愛情あるからこその子育てだ。対応するのは当たり前のことだろう。それだけで充分頭が下がる。指図されてやることではない。