少し前になるが、息子ととても仲良しの男の子のお母さんの話を聞いて、気持ちを動かされたので、その話をちょっと。

 その子は、男の子らしく活発で身のこなしも上手。元気な子。A君としましょう。で、そのA君の心が面白い。男の子らしくて元気が良いのとは裏腹に、結構繊細なのだ。我が子の神経質さとはまた全然違った別の部分である。日々、A君のお母さんが、A君のことを話すにつけ、それは感じていたのだが、今回の話はさらにそれを決定的にするものだった。
 セミの成長について語った本を、読んでもらっていた時のこと。
 セミって土の中で暮らして、成虫になる前に土を出て、木でさなぎになりますよね?
 その時「今までは土で暮らしていたけど、その場所を出て大人になります。‘おうちさん、バイバイ’」というような内容の記述があった。そこでA君は「もうおうちには戻って来ないの?」と泣き出してしまったというのだ!我が息子とは逆で、あまり頻繁には泣かないA君は、いつも寝つく時間を超えてさらに1時間以上も泣き続けたらしい。夜泣きはなかったものの、翌朝、またその本を持って泣きながら起きてきたとのことだ。
 まあなんて可愛いの!あまりの可愛さとA君の気持ちを思って涙が出そうになりながら「いや〜可愛い〜。優しいね〜。」と連発していた私だが、浮かない表情のA君のお母さん。
 ……ありゃ。
 ……どうしたのかなと思ったら
 「どう言ってあげたら良いのかわからなくてさあ。セミのウチをお母さんのお腹に例えてみたり、Aは大人になっても戻ってきて良いんだよ、って教えてみたり。でも泣いてるんだよねぇ。どう言ったら良いんだろう。」
 と戸惑っている。A君はどうやら丁度「人はどう生まれて大人になるとどうなっていくのか」ということに関心が出てきた様子。……そうなんだ!そんなことに関心が出てきたのね、わー成長していく過程で、何て愛しい瞬間なんだー。ひとしきり感動した後、A君のお母さんの戸惑った様子が気になって
 「A君は、どうしてそんなに泣いたのかなあ?自分に置き換えたのかなあ?」
 と聞いてみたら
 「ウーン、そうでもないみたいなんだよねえ。」
 「じゃあ、セミの気持ちを思いやって可哀相だなって思ったのかなあ?」
 「ウーン、そうなのかなあ……。」
 そしてそこで、お互いの事情のために、うやむやに別れてしまった。
 それからもまだ感動していた私は、A君が愛しいなあと一人感じ入り、しばらくしてA君のお母さんにメールをすることにした。彼女は、私が心理学の本を読んでいることを知っているので、何か意見を求めていたのかもしれない。
 皆さんはこういう時、どうしますか?