『アラルエン戦記』もまた、登場人物の表情や心情がいきいきと書かれており、描写が細かく、目の前で画像となって見えてくるくらいである。地理的な描写も細かい。位置関係、街の様子、人々の会話。でも、現実にはいない怪物がちょこちょこ出てくる。周期的に出てくる恐ろしい人物も、どこか生きているのに生きていないような、少しファンタジーを感じるが、完全に「魔法」とかそういったファンタジーはない。
 私が一番魅力に感じるのは、「レンジャー」という部隊で活躍する人たちである。多くの読者が、この存在のとりこになるだろう。「レンジャー」は、日本で言えば、忍者のような存在だ。音もちょっと似ている。にんじゃー。
 ……。
 音もなく素早く動き、人の目をくらますことを得意とする。スパイのように、敵の情報をいち早く聞きつけて、国に知らせ、王国を守っている。頭は賢く、弓使いも人の動きとは思えないほど素早く正確である。自分の感情をできるだけコントロールもするし、常に冷静さを求められる。もちろん、彼らは決して魔術師とかではなく、元々そういう素養のある人々が特別な訓練を受け、大変な努力を重ねて成長していく。
 主人公のウィルは、13歳でこのレンジャー部隊に入り、並外れた才能を持ちながらも、小さな失敗、致命的ではない大きな失敗を繰り返しながら成長していく。その様子は、まるで息子を見守るようで、ハラハラ心配するし、わくわく応援する気持ちにさせられる。
 私が一番好きな登場人物は、レンジャーの先輩、ギランである。レンジャーという存在自体が「完璧」に近いので、私の好みにしたら、ちょっと出来過ぎな気はするが、私は彼のウィルに対する一言に、心をわしづかみにされてしまった。
 ウィルが、レンジャーではない他の人たちのリーダーとして振る舞わなければいけなくなった時、それまで先導し、これからそこを離れなければならないギランが、このようなセリフを言うのだ。
 「自信を持っていなくても、自信を持った態度を見せろ。そうでないと、皆がついてこない。皆を心配させるな」といったような内容の言葉であった。
 これを読んで、「アラ。もしかしたら、ギランもこの場面まで、自信がなかったこともあったのでは。」と思わせられるのだ。そういう意味じゃないにしても、「僕も自信なかったけど、このように振る舞ってきた」という風に私には読み取れてしまった。
 もうこれで、キュン。である。
 その場面まで、ギランは、皆に優しく、紳士で、自信にあふれて先導してきた。ように見えた。でも本当は心細い気持ちになったこともあったのかも。
 妄想は膨らむ。
 ただ、このセリフ一発でギランのファンになりかけていたのを、後に「ギランはイケメンらしい」という設定を読んで、その熱は落ち着いた。自分の外見に関しての身の程を知ってしまい、周りを意識し、意識されているイケメンはつまらないのだ。私の偏見である。