六年間、女子校で過ごした私は、目立つ存在でもないのに、ショートカットだったからか、すごくファンでいてくれた子がいる。
 高校二年や三年になると、運動部の部活や、演劇部など、全校生徒の前であからさまに活躍の場を持つ生徒には、ファンがついた。私は地味な新聞部だったし、運動も得意じゃなかったし、活躍の場も特にないので、そういう存在ではなかった。はずなのに。何故か、その女の子は、私に夢中だった。なんでしょうか。今考えても不思議だ。
 そのことについては、私が自分で気づいた。そこの女子校では、校内で上級生とすれ違うと、立ち止りこそしないものの一礼して通り過ぎる決まりがある。中学一年の最初の頃こそ、立ち止まって腰から折るようにお辞儀をしたりするのだが、慣れてくると、大体歩いたまま首をカクッと下げるくらいだ。ところが、いつまで経っても、何だか猛烈に熱い視線を送ってきては、深々とお辞儀をしてくる子がいる。上級生の立場としてお辞儀されると、こちらも当然首をカクッとやるのだが、その子に応えると、いつも周りの友達らしき子たちも、キャーキャーと騒ぐ。「……。普通じゃないよな。」と気になった。
 又、その子が所属するコーラス部が、講堂の舞台で歌っているのこと。彼女の視線がやたらに、座っている私に注がれるのに気付いた。確信はしたが、こんな私に好意を寄せてくれているなんて、なんだか申し訳ないような気持ちになった私は、とうとう「いつもちゃんと挨拶してくれるよね。」と、友人を通じて自分から声をかけた。最初は「そんなことないです!」と、必死で否定する彼女だったが、周りの友達たちが、私の友達(運動部で活発、よく目立つ友達だった)のファンであったことも手伝って、喜んで接近してきた。
 高校三年になると、その教室が中学二年の教室からよく見えるのだが、授業の始まる頃や終わる頃に、ふと外を見ると、中学二年の教室から、彼女たちがこっちを向いてはキャーキャーと騒いでいるのだ。気がついてニカッと笑おうものなら、大騒ぎだ。電車でも、同じ車両になれば、キャッキャと喜ぶので、私の周りの友達に「下級生、うるさいよ。静かにさせて。」と言われて困った。
 家もいつの間にか調べられて、誕生日プレゼントを持って来られたり、何せ熱狂的なファンだった。そんな彼女の方が、先に彼氏なるものを作って、学校帰りなど、ラブラブな所を見せられていたが、それでも私のファンはまだ続けていたらしく、卒業時には大泣きで随分別れを惜しんでくれて、さらに家庭教師をお願いされた。
 でもさ、家庭教師は余分だったな。
 その後、塾講師をして、だいぶ教え方などわかっていったが、当時は教え方など、何も分からない状態で、私はただ横にいるだけと言って良い程度の、役立たずであった。彼女も私も、眠気に勝てないようなフラフラした状態で椅子に座っていたこともある。トホホ。彼女のお母さんも呆れていたに違いない。きっと成績もまったく変わらなかっただろう。教えていると、距離が近くなって、空腹のグーグー言う音がしたり、お腹一杯の時には、チャックがじりじりと音をたてて下がったり、きっと彼女の幻滅を誘ったことだろう。すっかり人間臭いレベルでのつきあいになった私に、彼女は恐らく気持ちがさめ、私たちはその後あまり連絡を取らなくなってしまった。
 でも、彼女の親しかった友人とは、今でも年賀状を交わしている。しかも、その子には既に中学生の女の子がいる。私が知り合った頃の彼女たちの年齢になっているんですね。すごく不思議な感じです。