小学校四年生の頃から、私は最寄りの駅近くの学習塾に通い始めた。
 そこでの先生の教え方は、小学校のように回りくどくなく、コツを上手に教えてくれたので、私の成績は思いの外グングン伸びて、先生にも可愛がられたし、友達もたくさんできた。
 学校で孤立しているとか、そういった偏見もない他校の女の子たちと仲良くなった。特に、お姉さんタイプで活発なMさんという子に好かれた。今思い返せば、アメリカニュージャージーに住んでいた頃の「ようこちゃん」と少し雰囲気が似ていたような子だった。ようこちゃんをもっと元気一杯にした感じで、その子の周りには私よりずっとませた感じの女の子がいつもいたが、私は彼女に何故か好かれていて、よく声をかけてもらっていた。
 塾からの旅行でも、誰か彼かが常に隣りにいてくれて、退屈せずに楽しんだが、夜のまくら投げは、特にMさんと盛り上がり、いつの間にか彼女のカメラにも嬉しそうにまくら投げをする私の姿がおさまっていて、その写真を旅行後にくれたことがある。
 そして、学校の勉強の補助、という役割をしていた学習塾で成績が伸びた私は、五年生の頃に、進学塾に通い始めた。
 何駅か電車に乗って通わなければならない進学塾で、今でも印象に残る友達がいる。その子も、名字こそ違うが、イニシャルは学習塾の時につかず離れずいてくれたMさんと一緒で、その子もMさん。でも、彼女は大人しいタイプ、帰国後に入った最初の日本の小学校で知り合ったCさんや、転校した学校で知り合い、間もなく引っ越してしまったAさんとタイプが似ていた。
 授業中や他の休憩時間に特にベタベタするわけでもないが、Mさんは私のことを気に入ってくれていて、塾に着くまでの時間に一緒になると、かなり親密に色々な話をした。よく、読んだ本、雑誌や漫画の話をしてくれたような気がする。その中で、五年生女子が気になるような話題は、占いだとかおまじない。お互いが食いついたおまじないは、今思えばちょっと気持ち悪いことなのだが(笑)、赤いハンカチの中に、お互いの髪の毛を一本入れておくと、ずっと縁が切れないよというもの。しつこいが、小学五年生女子である。思春期入口の女の子がそういうおまじないだとか占いだとかを知り始め、信じたがるのは当然のことなのかもしれない。内緒のことでワクワクする年頃で、私たちは、次に会う時、塾の前に珍しくわざわざ待ち合わせをして、赤いハンカチを用意し、お互いの髪の毛を一本入れ合った。ちょっとした誓いのような気分で、とても印象的な出来事だった。
 彼女は、身体が丈夫じゃなかったのか、顔色が普段からあまり良くなくて、声もかぼそくて、弱々しい感じに見えた。塾からの旅行でも、船酔いをし、ずっと特別室で横になっていたが、お互い、特に声をかけあわず、ただ私は一度お見舞いに顔を出しただけだった。もう少し何か声をかけたりすれば良かった。何しろ慰めることが下手で、一人の友達に執着するのも苦手な私である。幼い頃は、特にそういうことが露骨だったようで、決まった友達と常に行動を共にするということができなかった。
 その後、彼女は塾をやめてしまい、それっきり。
 今頃何をしているのだろう。色が白くて、か弱そうな彼女にも、今どうしているのかな、会ってみたいなと、強烈な印象と共に時々思い出す。