アメリカから帰国して入った学校で、今でも懐かしく思い出す男の子二人の話がある。
 一人は、平凡ながら、初恋だと思います。
 アメリカにいる間、近所の日本人の男の子と「結婚する!」と言ってはばからなかったが、別に恋のようなドキドキした気持ちは全然なくて、ただその子が、「物知り」で、意地悪をせず冷たくなく、支配的ではない穏やかな感じが気に入っていた。
 帰国して間もなく、初めて「この子は他の男の子と違う。喋ろうとしても、ドキドキして話せない。」と意識した男の子がいた。あきらかに「お気に入り」の域を脱していた恋心デス。ムフフ。二年生の頃は、前述の通り、結構伸び伸び過ごしていた私なので、男の子相手でも平気で命令したり気の強い言葉を投げかけていた。クラスに好きな男の子はいたが、先生にも「誰々クンと、誰々クンと、誰々クンと、誰々クンが好きなんだよ。」なんて平気で言う程度だったので、まあお気に入りって程度ですな。
 そんな私がどうしても話しかけられない男の子が別のクラスにいたのだ。家が近いのに遊びに行ったこともないし、喋りに行こうと頑張ってみたこともない。ただ、一言交わしたことがある。「○○君て、名前が○△君かと思ってたんだよ。」だった。下校で一瞬二人きりになる時間があった時、勇気を振り絞って話しかけたそれが最初で最後の言葉です。トホホ。色が白くて品が良く、ふんわりした雰囲気の彼は「そうなんだ……。」と言って、ニコニコ笑ってくれた。彼とバイバイした後、帰宅した私は、ふわふわと地に足がつかないような気持ちだったので、その日は夜までおそらく目がハート型だったことだろう。
 それとはまた別で、クラスで一人、好きとはまた別の、気になる男の子がいた。それは別に「お気に入りの子」の部類にも入らない、ただとても印象的な子だった。先生に何か注意されて後ろに立たされると、とても悲しそうな顔をする男の子だった。その子は色が白くてひょろひょろと背が高かった。その子の服装の雰囲気までよく覚えている。後ろに立たされると、その子があまりに悲しそうな顔をするので、クラスの男の子たちはわざと「あれっ○○、半泣きちゃう?」とあおる。そうやってあおるのは当時恒例だった。気の強い子は大抵それをはねのけて怒り返していたし、後ろに立つことを屈辱だと思っていた子の多くは涙目になっていた。ところが何故かは忘れたが、そんなにやんちゃな子ではなかったはずのその男の子は度々立たされていて、その度に彼はとても悲しそうな顔で立っているのだ。そしてからかわれると、目を真っ赤にして顔を上に向けて、涙がこぼれおちるのを必死で防いでいた。その「ホントにあと一歩、あと一押しで泣いちゃいそう」な感じに、男の子たちはたまらなく攻撃欲をかきたてられるようで(笑)、こぞってからかった。当時、正義感が強く、クラスの中で発言も多かった私は「そんなこと言わんときーよ!そんなこと言うから余計泣いちゃいそうやんか!」と必死になってかばった。
 可愛らしい女の子みたいな顔をした彼が必死になって涙をこらえている様子が、どうにも私にはいじらしくて仕方なく、彼はそんなに弱っちい子じゃないはずなのにと思っていたのだ。下校時間に校庭に集まった時、よく彼が一人でいるのが気になって、ちょっかいを出した。それで追いかけっこになって、私たちは度々遊んだ。彼の生き生きと楽しそうな表情を今でも覚えている。可愛らしい子だった。