さて、今年の初め頃に出た奥田民生のアルバムの曲についてだが、いつものようにほとんどどれも気に入っている。中でもお気に入りは、『カイモクブギ』。歌詞も彼らしいし、リズムも楽しく、車で聴いていても一緒に歌えるような、ウオーキングしているとズンズン進めるような、軽いながらも力強さを感じる。
 他に曲によって部分的にすごく好きなものがあったりするのだが、全体の印象としては『イナビカリ』『明日はどうだ』『ちばしって』が好き。でも今回の私の注目は『アドレナリン』!奥田民生の曲を聴いていて、初めて、歌詞でふんわりしたロマンチックなものを感じてしまいました。
 男女のことを歌った曲、例えば『恋のかけら』や『マシマロ』は「うんうん」とうなずく感じはあっても、切ない感じはない。『ハネムーン』『カヌー』『ドライバー』等々にしても、おぉ露骨だわ、と思うくらい。他にも男女のことを歌った歌は山のようにあり、生々しい言葉を避けた比喩があっても、奥田民生らしい男っぽい歌いっぷりと表現力で、カッコイイなあ、ダンナにこんな風に思われてたら幸せだなあとしみじみするが、決して「曲に浸る」感じはない。『THE STANDARD』は珍しくちょっと切ない感じだけどね。失恋だとか、恋が成就したらとか、片思いとか、恋愛沙汰や切ない気持ちをどうこう歌うのではなくて、目にした女性をこんな風に見ているとか、目の前の女性をこんな風に感じているとか、すごく男目線で、女々しさがない。その男っぽさがとても良い。別に男臭いのでもありません。*男臭いのは苦手です(笑)。
 ところが、新しいアルバムに入っている『アドレナリン』てのは、ちょっと今までにはない雰囲気の歌詞。40過ぎてこんな可愛く、ドキドキを表せるような、それでいて当たり前だけど大人な歌詞が書けるんだね。女々しさは相変わらずないし、やっぱり男目線。目の前の女性をこんな風に思ってこんな風に愛するという歌詞なんだけど、それがドキドキした恋の気持ちと、それを愛として表現した気持ちを、ちょびっと露骨な比喩も交えて上手に歌詞にしている。
 言葉にこだわって世界を狭めたくないだろうし、音の響きだけで面白いからと歌詞にしている言葉がたくさんあるんだけど、奥田民生の曲は、メロディや楽器の使い方、音、構成、天性の表現力、だけではない、言葉による彼の世界があってこそだということをよく実感する。この曲も彼のそういった才能の一つだと言えるだろう。メロディがまた抑え気味。絶賛するような素晴らしい曲って訳でもないんだろうけどね、奥田民生の歌詞をこんな風に受け取ったのは初めてだったので新鮮でした。